雨宮勇徒の研究室危機管理[南海トラフ地震対策・原子力]

放射線と人体


放射線が人体に当たると、細胞内の原子が電離されます。これを電離作用といいます。電離とは原子の電子が放射線のエネルギーによって飛び出し、原子をイオン化することです。この電離によって細胞やDNAが影響を受けるのです。

まず放射線の特徴について述べます。

α線はヘリウム原子核に当たる陽子2中性子2の粒子の高速の流れです。ほかの放射線比べて粒子が重く、電荷が大きい(+2)ため物質と相互作用しやすいため速さが遅いです。透過力は低いですが、放射線のエネルギーが高いため電離作用は高くなっています。空気中では3〜4cm、水中では4μm程しか放出されません。紙一枚で遮蔽できます。その半面、放射線の影響を局所的に受けます。

マイナスβ線は陰電子の高速の流れで−1の電荷をもち、プラスβ線は陽電子の高速の流れで+1の電荷をもっています。β線はα線よりも透過力が高く、電離作用が低い特徴があります。核種によってβ線のエネルギーが大きく異なり、透過力も空気中数m〜数十cm、水中で数cm〜0.数mmとまちまちです。数ミリの金属板でも遮蔽できます。

γ線は波長の短い電磁波で、電荷0で物質と反応しにくく、X線よりも透過力が大きい放射線です。α線やβ線のように一定距離放出されるわけではなく、光と同じように距離とともにエネルギーが減衰します。γ線の遮蔽は厳密には出来ません。γ線は原子にあたるとエネルギーのほとんどを失うため、減衰させるには密度の高い鉛、鉄、コンクリートが有効です。

中性子線は中性子の高速の流れで、電荷0の透過力の強い放射線です。中性子は単独では不安定で、半減期12分でβ崩壊し、陽子に変わります。中性子線の遮蔽はγ線同様に難しく、中性子を減速させてエネルギーを減らし、原子核に吸収させます。

高速中性子を減速するには、中性子の質量に近い物質を用いるのが有効です(物理の衝突の項参照)。例えば止まっている中性子に高速中性子が衝突すれば、高速中性子はその場に止まり、静止していた中性子は衝突した高速中性子と同じ速さで飛んでいくのです。ビリヤードの原理です。中性子に一番近いのが水素原子核(陽子1つ)ですが、水素は気体のため密度が低く、効率(当たりやすさ)がよくありません。そのため原子炉では減速材として水(H2O)が使われます。同じ理由でパラフィン(CnH2n+2)やポリエチレン((CH2)n)も遮蔽剤として使用されます。鉄や鉛がコンクリートとともに中性線の遮蔽に使われるのは、減速自体はしにくいのですが、密度が高いため衝突する機会が多いためです。

多くの場合中性子線は速度が遅い(エネルギーが低い)方が原子核に吸収されやすくなります。水の水素原子に中性子が捕獲されると、水素2(重水素)になりγ線が放出されます。酸素原子の場合は、窒素16になり陽子線が放出されます。原子炉の制御棒に使われるような中性子を吸収しやすい元素としてホウ素、カドミウム、ハフニウムなどがあります。

次に放射線が人体に与える影響について述べます。放射線の影響を意図せずに受けることを被曝といいます。被曝には体外被曝と体内被曝とがあります。体外被曝とは宇宙からの放射線のような線源が体の外にある場合の被曝で、体内被曝とは放射性物質を吸い込んでしまったときのような線源が体の中にある場合の被曝のことです。体外被曝は体の内部まで入り込める透過性の高い放射線であるγ線や中性子線、体内被曝は人体与える影響の強い電離作用の高い放射線であるα線やβ線が問題となってきます。

次に放射線に関する単位についてICRPの勧告に準じて説明します。

放射性物質の放射能の強さは単位時間に何回崩壊するかによって決まります。1秒間に1個の原子が崩壊するときの放射能の強さを1ベクレル[Bq]で表します。

放射線の電離作用で物質に与えられるエネルギーの吸収密度を吸収線量といいます。1kg当たり1ジュール[J]のエネルギーを吸収したときの吸収線量を1グレイ[Gy]で表します。

同じ吸収線量でも放射線の種類によって生物に与える影響は異なります。各放射線の危険度を示すのを放射線荷重係数といいます。この線質係数は、γ線やβ線は1、中性子線はエネルギーに応じて5〜20、陽子線は5、α線は20です。

放射線が生物に与える影響の度合いを等価線量と呼びます。これは吸収線量に放射線荷重係数を乗じたもので、単位はシーベルト[Sv]で表します。

内部被曝のように放射線で全身均一に被曝するわけではありません。被曝場所によって放射線の感受性も違います。被曝した臓器・組織で吸収された等価線量を放射線感受性の相対値(組織荷重係数)を乗じてすべてを加えたものを実効線量といいます。全身にわたる確率的影響のリスクを評価するもので、これは一般的に言われている放射線の被曝量のことです。

組織荷重係数の値は、生殖腺:0.2。赤色脊髄、結腸、肺、胃:0.12。膀胱、乳房、肝臓、食道、甲状腺:0.05。皮膚、骨表面:0.01。その他:0.05です。

ICRPにおける放射線防護の基本的な考え方は、放射線被曝の原因となる有益な行為を不当に制限することなく、人を防護するための適切な標準を与えることです。より詳しく説明すると、確定的影響の発生を防止(短時間に受ける線量を急性症状がでる閾値[200mSv]以下にする)し、確率的影響の誘発を制限(被曝量を職業人:100mSv/5年[年10-3の死亡リスク]以下、(自然放射線を除く)生涯線量1Sv以下。一般人:1mSv/年[年10-4の死亡リスク]以下、生涯線量100mSv以下にする)することです。

放射線による外部被曝防護の3原則は、時間(放射線にあたる時間を短くする)、遮蔽(放射線源と人の間に遮蔽物を置く)、距離(線量率は距離の2乗に反比例する)です。

次は内部被曝の防護についてです。水や食品などからの経口摂取や空気中やほこりなどからの経口摂取の量を減らすことが重要です。

飲料水や食品については、食品衛生法の規定に基づく放射性物質に関する暫定規制値(Bq/kg)があります。放射性ヨウ素は、飲料水、牛乳・乳製品:300(乳児は100)、その他:2000。放射性セシウムは、飲料水、牛乳・乳製品:200、その他:500、などです。

体内に入ったベクレル値がわかれば、内部被曝量は算出できます。下に内部被曝に対する線量係数(3核種のみ)を記載します。線量係数に取り入れた放射性物質のベクレル数を乗じると総被曝線量(子供の場合70年、大人の場合50年の積算線量)になります。

表1.経口摂取の場合の内部被曝に対する線量係数(μSv/Bq)
ICRP1歳未満7-12歳12-17歳大人ECRR1歳未満1-14歳大人
Cs1370.0210.0120.0130.013Cs1370.320.130.065
I1310.180.0520.0340.022I1310.550.130.068
Sr900.230.060.080.028Sr9045189.0

参考文献

参考リンク

被曝量を計算してみよう[放射能の話〜生きのびるための基礎知識]
内部被ばくに関する線量換算係数[緊急被ばく医療研修のホームページ]
ウィキペディア
原子力百科事典 ATOMICA
東日本大震災関連情報(水道・食品関係)[厚生労働省]
ECRR(欧州放射線リスク委員会)2010年勧告[美浜の会]
国際放射線防護委員会(ICRP)の 放射線防護の考え方
低線量放射線被曝のリスクを見直す

(2011/6/16)

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