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原子力発電

原子力発電は核分裂によって発生した熱で水を水蒸気にし、その水蒸気でタービンを回して電気を起こします。熱を発する仕組み以外は火力発電と一緒で、熱エネルギーをタービンの回転という運動エネルギーに変え、それを発電機で電気エネルギーに変換するわけです。

これから原子炉内でどのような変化が起こっているのか説明していきます。

原子力発電所ではウランを燃料として使っています。ウランは天然で存在するもっとも重い元素で、ウラン238、ウラン235、ウラン234の三種類の同位体(同じ元素で質量数の異なるもの。つまり中性子の数が違う核種)があります。その中でウラン235が原子力の燃料として利用されます。

ウラン235がどのような変化をするか説明します。

ウラン235に熱中性子が当たると核分裂し、平均2.4個の高速中性子と膨大な熱エネルギーが発生します。核分裂によって飛び出した中性子のうちの一つが次のウラン235に当たっていくと、核分裂が連鎖的に起きます。そのためには発生した高速中性子を減速させて熱中性子にする必要があるのです。

なぜかというと、中性子のスピードが遅い(エネルギーが低い)方がウラン235の原子核と反応しやすいからです。核分裂のしやすさをを核分裂断面積といい(単位はバーン[b])、ウラン235の場合は熱中性子は579、高速中性子の場合は2です。

中性子が原子核と反応したからといって必ず核分裂するわけではなく、取り込まれる場合もあります。そのなりやすさを捕獲断面積、核分裂断面積と加えたものを吸収断面積といいます。中性子によって核分裂が起こる確率は、核分裂断面積/吸収断面積で表されます。

高速中性子を熱中性子にするためには、中性子を減速する必要があります。発電所で使われている原子炉では、減速材として冷却材として軽水が使用されていて、軽水炉と呼ばれています。軽水は重水(陽子と中性子からなる重水素2つと酸素1つ)や黒鉛に比べると、高速中性子の減速能力が高く安価であるため、原子炉に広く使われています。

天然ウランでは燃料として利用できるウラン235が0.72%しかありません。減速材に重水や黒鉛を使ったものなら天然ウランでも大丈夫なのですが、軽水の場合は中性子を吸収しやすいため、継続的に核分裂を起こすためにはウラン235の濃度を約3%に引き上げた(低)濃縮ウランが使用されます。

1回の核分裂で発生した中性子でk個の核分裂を起こすとき、kを増倍率と呼びます。1の場合は継続的に分裂が起き、臨界状態といいます。kが1より大きいと発熱量が増え、発電量が高くなります。原子炉内の中性子量を制御することでkが変化し、中性子を吸収する制御棒でそれを行います。

次に原子炉の種類について説明します。軽水炉には沸騰水型(BWR)と加圧水型(PWR)の2つがあります。BWRは軽水を直接沸騰させるのに対して、PWRは軽水を沸騰しないように圧力をかけ、得られた熱を別の軽水側(二次系と呼ばれる原子炉とは隔離された管)を沸騰させ、タービンを回します。BWRは構造が簡素、PWRは放射性物質の汚染が小規模だという利点があります。

日本に「もんじゅ」と「常陽」がある高速増殖炉は、高速中性子を使ってプルトニウムを増やす原子炉です。

プルトニウムの発生過程を、まず軽水炉の場合から考えましょう。

軽水炉の燃料はウラン235が約3%、残りがウラン238(わずかにウラン234も含まれる)です。熱の大部分はウラン235の核分裂によるものですが、一部はウラン238によってえられる熱なのです。

ウラン238は熱中性子とは反応しませんが、高速中性子とは反応します。高速中性子に対する断面積は、核分裂が0.05、捕獲が0.3と小さいですが、燃料の97%を占めているため無視できません。

ウラン238が高速中性子を捕獲すると、プルトニウム239へと変化します。プルトニウム239はウラン235と同様に燃料として利用できます。

軽水炉でもウラン238の一部がプルトニウム239に変わり、核分裂によって熱を発生します。プルトニウム239によってえられるエネルギーは全体の30%だともいわれています。ウラン235、ウラン238、プルトニウム239の断面積を表1に、一個の核分裂で生じる中性子の平均数を表2に示します。

表1 断面積[b](バーン)
熱中性子 高速中性子
核分裂断面積 捕獲断面積 核分裂断面積 捕獲断面積
ウラン235 579 100 2.0 0.5
ウラン238 0.05 0.3
プルトニウム239 741 267 1.9 0.6
表2 1個の中性子吸収で新たに生じる中性子の平均値
熱中性子 高速中性子
ウラン235 2.06 1.968
ウラン2380.39
プルトニウム239 2.10 2.234

核分裂する燃料が一回の分裂で、核分裂しない燃料から生み出される核分裂性物質の数のことを転換比といい、軽水炉ではウラン238からプルトニウムへの転換比は0.6程度といわれています。つまり軽水炉内の燃料のウラン235や生成されたプルトニウム239が10個核分裂したときに、ウラン238からプルトニウム239が6個生成されるということです。

高速中性子の場合には転換比(この場合には増殖比という)が1以上でなければなりません。目的がプルトニウム239を増やすためだからです。燃料のプルトニウム239の分裂とウラン238をプルトニウム239にするための中性子が必要になるため、一回の分裂で二つ以上の中性子が生じなければなりません。その条件を満たすのは、プルトニウム239を燃料にし中性子を減速せずに使用するしかありません。実際の原子炉では増殖比をあげるために、核分裂の生じる炉心の回りに、燃料を濃縮する際に出るウラン238を置き、無駄なく中性子を利用しています。

冷却材は減速能力が低く熱効率のよい液体ナトリウムが使われます。その熱を二次系の液体ナトリウムに伝え、タービンを回す水へと伝えていきます。液体ナトリウムの欠点は、イオン化傾向が高いため、水と反応しやすいことです。

日本には「ふげん」という転換炉があります。転換炉とは軽水炉よりも転換比が高い0.8で、減速材に重水が使われている原子炉です。軽水炉より濃縮度の低い燃料や、MOX燃料を使用できることが特徴です。

最後にプルサーマルについて説明します。プルサーマルとは軽水炉でMOX燃料を使用することです。軽水炉で生じたプルトニウム239を有効利用するのが目的です。プルサーマル用のMOX燃料はウラン235の代わりにプルトニウム239が4〜9%含まれています。MOX燃料を3分の1ほど加えて発電するのです。

参考文献

参考リンク

ウィキペディア
原子力百科事典 ATOMICA

(2011/6/7)

核についての基礎知識/ 核燃料/ 放射線と原子/ 放射線と人体/ 核被害/ 体外・体内被曝

危機管理[南海トラフ地震対策・原子力]

雨宮勇徒の研究室[教育・南海トラフ地震対策・原子力]