雨宮勇徒の研究室危機管理[南海トラフ地震対策・原子力]

体外・体内被曝


事故が起きなくても私たちは自然界から被曝を受けています。宇宙や地上の放射性物質から体外被曝を、空気中や食物の中に含まれる放射性物質から体内被曝を受けているのです。その被曝量は世界平均で2.4ミリシーベルト、日本では1.5ミリシーベルト程度です。また海外では約10ミリシーベルトある地域もあります。

ここでは線量の程度で人体にどう影響を与えるか述べていきます。

人体に関して確定的影響と確率的影響があります。また被曝直後か短時間に現れる早発性(急性)障害と、数年〜数十年後に現れる晩発性(慢性)障害にも分けられます。

確率的障害は発ガンと遺伝的影響(晩発性障害)の現れる確率が浴びる線量に応じて増加する特徴があります。放射線の浴び方や障害の大小に線量が関係ないのです。放射線を浴びれば浴びるほど、自然に発生するよりも高くなるわけです。

確定的影響はある一定量(閾値以上)浴びないと症状は出ません。線量が増えれば障害(早発性障害)は重症になる特徴があります。この場合、一定量一時期に浴びなければ放射線による症状は現れないことになります。

それではどの程度の放射線量を浴びると人体に障害が現れるのか具体的に挙げておきます。まずは急性障害の症状です。200ミリシーベルト以下では臨床症状が確認されていません。ここで述べる症状はあくまで急性障害の話です。500ミリシーベルトでリンパ球の一時的減少。1000ミリシーベルト(1シーベルト)で10%の人が悪心・嘔吐。1500ミリシーベルトで半数の人が放射線宿酔(二日酔い症状)。2シーベルトで長期的な白血球の減少。3〜4シーベルトで30日以内に半数の人が死亡。8〜10シーベルトで30日以内に死亡。これらは全身被曝です。局部被曝の場合は、1シーベルトで水晶体混濁。3シーベルトで脱毛。5シーベルトで紅斑などです。

次に放射線による発ガン死亡リスクについてです。これは確率的影響なので線量に比例して死亡率があがります。ICRP(国際放射線防護委員会)のデータでは、総被曝量(今までの自然放射線以外の放射線被曝の総量。レントゲンやCTなどの医療被曝を除く値)が1シーベルトで5%発ガンによる死亡率が上昇します。比例するので100ミリシーベルトでは0.5パーセントとなります。また別の団体ECRR(欧州放射線リスク委員会)では1シーベルトで10%の死亡リスクと評価しています。ただしECRRの総被曝線量の算出方法(体内被曝を重視し、低線量域ではICRPの評価より数百倍高い値になっている)が異なります。

人体の各部位で放射線の影響の受けやすさは異なります。細胞ごとに放射線感受性が違い、これが高いほど障害を受けやすくなります。増殖能力が高く分化の程度が低いほど感受性が高くなっています。胎児が放射線の影響を受けやすいのはこのためです。体の部位で言うと、造血組織、生殖腺、皮膚表皮の基底層、小腸上皮、水晶体などが感受性が高いのです。

次に体外被曝について述べます。透過力の高いγ線や中性子線は皮膚を通り抜け、体内まで届きます。体内には放射線感受性の高い造血組織や胃腸があり、生命維持に欠かせないため、電離作用の高く皮膚までしか届かないα線やβ線よりも危険なのです。またα線などは飛距離が短いため、人体の近くに線源となる核種がなければ驚異ではありません。遮蔽も簡単にできます。その点γ線などは長い飛距離を持っていて遮蔽も難しいので、注意する必要があります。

次は体内被曝についてです。放射性物質が傷口や呼吸器、消火器から体内に入り、血液を介して特定器官へと移動していきます。電離作用の強いα線やβ線を出す核種が驚異であることは言うまでもありません。

体内に放射性物質があるかぎり被曝し続けます。一度体内に吸収されると、簡単には排出されません。体内のある放射性核種が半分になるまでの時間を有効(実効)半減期といいます。有効半減期は物理的半減期と生物的半減期が関係しています。物理的半減期は以前プルトニウムやウランの際に説明した崩壊によって半分になる期間です。生物的半減期は代謝によって半分の量にまで減る期間を示しています。

半減期の例を挙げておきます。
セシウム134:物理的半減期2年、生物的半減期100日、有効半減期88日。
セシウム137:物理的半減期30年、生物的半減期100日、有効半減期99日。
ヨウ素131:物理的半減期8日、生物的半減期120日、有効半減期7.5日。
ストロンチウム90:物理的半減期29年、生物的半減期49年、有効半減期18年。
ウラン238:物理的半減期44億6800万年、生物的半減期300日、有効半減期300日。
プルトニウム239:物理的半減期2万4100年、生物的半減期100年、有効半減期100年。

原子には特定の器官に集まる特性があります。ストロンチウムやラジウムは骨、ラドンは肺、セシウムは筋肉や全身、ヨウ素は甲状腺、ウランは骨、プルトニウムは骨・肝臓・肺に集まります。

各原子で吸収のされやすさが異なります。消化管から血液の場合ですと、ヨウ素は血液に100%、血液から特定器官(甲状腺)へ30%となっています。ほかの元素では、ラジウムは30%、99%。ストロンチウムは95%、90%。ウランは0.01%以下、85%。セシウムの消化管から血液への吸収率はほぼ100%です。

参考文献

参考リンク

ウィキペディア
原子力百科事典 ATOMICA
国際放射線防護委員会(ICRP)の 放射線防護の考え方
低線量放射線被曝のリスクを見直す

(2011/6/7)

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